数教協ってな〜に?
ここでは、<水道方式><量の理論>で知られる数学教育協議会について紹介
します。なお、ここで紹介する文章は、1984年に数教協が発行した「数学教育の諸
原則−数教協の成果−」からの転載であり、したがって文中の数字などは当時のもので
あることをお断りしておきます。
数教協とは何か
数学教育協議会(数教協)は1951年に創立された。当時日本はまだアメリカ軍の占
領下にあり,アメリカ合衆国のいくつかの州で盛んだった生活単元学習が日本でももて
はやされていた。結果として,これは学力の低下を惹き起こし,とくに児童の数学の学
力は極端にさがった。当初,数教協は少ない会員でまずこの生活単元学習に反対しつつ,
正しい数学教育を確立するために活動を開始した。
その後,日本政府は生活単元学習を放棄し,それに代わるかのように教育内容に対する
統制を徐々に強化した。そして,今日では,教育内容は文部省の公布する学習指導要領
によってほとんど完全に規定されている。
この体制に不満をもちもっと自由な教授を行ないたいと望む有志の者が,各教科ごとに
民間教育団体に結集している。現在このような団体が40以上もつくられ,数教協もそ
の1つとなっている。
民間教育団体とは同業組合,学会,労働組合,政党,宗派などとは異なり,それぞれ独
自に決めた指標に賛成した個人から成り,その会費のみによって運営されている。それ
はいかなる権力ももたず,他の組織からのいかなる後援も受けないまったく自由な組織
である。
現在,数教協の会員数は2000を数え,それは幼稚園,小学校,中学校,高校の教師
から大学の教授,研究者にまでわたっている。学生ならびに父母も会員になっている。
月刊の機関誌として『数学教室』を発行しているが,すでに300号を超え,1万近く
の部数を出している。さらに,会員の研究と実践にもとづく多くの書物が出版されてい
る。
文部省の統制と圧迫にもかかわらず,数教協はこの40年間の活動の中から,数学教育
に関するいくつかの重要な原理と方法を生み出し発展させることに成功した。これらは
現実に教室で試され,その結果,次第に高く評価され,日本の数学教育にかなりの影響
を与えるにいたっている。とくに《量の理論》といわゆる《水道方式》とは大きな成果
をあげている。また近年にいたって,数教協は《楽しい授業の創造》を提唱したが,こ
れは先の原則ないし方法を成功させる裏付けともなっている。
《量の理論》は,数とその四則の意味を明らかにするとともに,数学を外界に適用する
道を開き,初等数学を微分積分学と結びつける。
一方《水道方式》は,それらの計算の手続きに注目し,それらを徹底的に分析して体系
化することに成功した。このような試みが,他の何びとによってもなされなかったこと
はおどろくべきことだ。これらの手続きの説明には,タイルを教具およびシェーマとし
て利用するが,これは,上述の量と計算手続きとを結びつけるものであり,子どもの理
解および習熟に大きな役割を果たしている。
これらに対して《楽しい授業》は,数学理解の主体的条件に着目する。これによって多
くの教具,ゲームが考案され,実験や実測が遂行されている。
アメリカの言語学者チャールズ・ウィリアムス・モリスの用語を借りて要約すれば,こ
れら3つの原則は,それぞれ数学教育の意味論的側面,構文論的側面,実践論的側面に
あたるともいえよう。
数学教育協議会指標
われわれは,憲法と教育基本法を貫く平和と民主主義の教育を実現することをめざし,
その一環としての正しい数学教育を打ち建てるために献身的な努力をささげる。
正しい数学教育は,すべての国民が自ら正しい世界観を形成するための確固たる土台を
準備するとともに,科学技術のめざましい発展の予測される未来社会において,積極的
に活動し得るための基本的言語能力を提供するものでなければならない。
研究は理論と実践との有機的統一のもとにのみ正しく発展することができる。理論は複
雑多岐な現実の背後に潜む法則を探求し,実践は現実の中に意外な事実を発見して,古
い理論を修正し,変革する。この二つの側面が正しく統一されるよう努める。
われわれの理想に向かって研究と運動を進めていくためには,数学教育協議会は強い団
結力を持つ有機的な集団でなければならない。強い団結力は,全会員の創意をあくまで
尊重する自由討議の雰囲気と,自由討議の上で決定された方針はあくまで守っていく集
団の規律によってのみ保障される。
われわれの理想は,多数の国民の協力によってはじめて実現することができる。日夜教
育の仕事にたずさわっている教育者はいうまでもなく,父母,専門学者,学生など,お
よそ教育に関心のある国民のすべてによびかけて,手をたずさえて,われわれの理想に
向って進んでいくことを願ってやまない。